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2017年2月

「預貯金も遺産分割の対象に」


 平成28年12月19日,最高裁判所大法廷の決定により

これまで最高裁判所は「預貯金は相続開始によって当然に分割されるため遺産分割の対象とならない」

とされていましたが、「預貯金は遺産分割の対象になる」と判例が変更されました。

 少し難しい話になりますので、簡単に何が変わったかというと

以前は、亡くなられた方の預貯金は、原則、法定相続分で分割されたものと理解されていたので、

たとえば、亡くなった夫が800万円の預金があり、妻と夫の兄弟3人が相続人の場合、

預金のうち妻の法定相続分(4分の3)の600万円を銀行から払戻請求することができましたが、
 
 今後、遺言がない限り、預貯金の払い戻しには相続人全員の署名と実印、印鑑証明書が必要で

印鑑がもらえないと遺産分割調停の申立てをするしかなくなりました。

 以前から銀行は、法定相続分だけ払戻してほしいと言っても任意には払戻してはくれなかったのですが、

銀行はそのお墨付きを得たようなものですね。

 これでますます遺言の重要性が高まったかもしれません。

 このことに限らず、なぜ遺言が必要なのかを事例をあげて考えていきましょう。

 また、遺産分割調停になった場合、何が問題になるかも挙げてみました。
 

事例①
夫と妻 子どもなし 兄と弟がいる夫が亡くなった場合
遺産は、定期預金400万円と自宅の土地と建物(固定資産評価額2,000万円)

・定期預金を解約するのも、自宅の土地建物を妻名義にするのも、
遺言書がなければ、他の相続人全員(この場合は兄弟)の署名・捺印(実印)・印鑑証明書が必要。

・兄弟に法定相続分の遺産を要求されたら、自宅を出て土地建物を売却?

 ★ 遺産分割調停
 ★ 遺産の評価
 ★ 預貯金の取り扱い
 ★ 遺留分


事例②
3人の子がいる父が亡くなった場合(母は先に亡くなっている)
長男 同居 長男の嫁が父母を介護。
長女 父に多額の結婚費用、生活資金の援助をしてもらった。
次男 高校を出てから家出をして何十年も行方がわからない。
遺産は、預貯金は少なく、株式と自宅不動産。
 
・次男を見つけ出さない限り、株の名義も不動産の名義も変えられない。

・長男は嫁が介護をしたので遺産を多くもらうべきだし、
長女は生前贈与を受けているから少なくてよいと主張。

・長女は、長男が親名義の家に住み、住居費がいらなかったのだから、
家賃相当分の贈与を受けているのと同じだと反論。

 ★ 寄与分
 ★ 特別受益
 ★ 不在者財産管理人選任の申立・失踪宣告


遺産分割調停
  遺言書もなく、話し合いで遺産の分け方が決まらない場合は、
 相手方の住所地の家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てをします。

  調停で話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の審判によって決定します。

  審判では、法定相続分で分けるのが原則です。
 ですから、相手方が生前に多額の贈与を受けている、自分はたくさん介護をした等主張する場合は、
 主張する者がその証明をしなくてはなりません。

  法定相続分
 
   配偶者と子  配偶者2分の1 子2分の1
   配偶者と父母 配偶者3分の2 父母3分の1
   配偶者と兄弟 配偶者4分の3 兄弟4分の1

遺産の評価
  いつの時点の評価か?→遺産分割時点の評価(残っているものを分ける。)

  預貯金が死亡時より減っている(相続人が使った?)という場合、
 遺産分割の話し合いの中で請求はできますが、調停で審判になるとその件は除外されて、
 訴訟で解決することになります。

  逆に遺産から葬儀費用を出した場合、他の相続人が認めなければ返還を請求されることがあります。

         ・固定資産税評価額
  不動産評価  ・路線価
         ・時価  等

  事例①の場合、固定資産評価であれば兄弟の法定相続分は600万円
         時価3000万円の場合、時価評価で請求されたら法定相続分は850万円

預貯金の取り扱い
 昨年12月19日最高裁の決定で預貯金も遺産分割の対象になるとされました。
   ↓
 前述の通り、事例①の場合、定期預金のうち妻の法定相続分300万円を銀行から払戻請求することができましたが、今後、遺言がない限り、預貯金の払い戻しには相続人全員に実印を押してもらうか調停をするしかなくなりました。

遺留分
 遺留分とは、遺言によって法定相続分を侵害された法定相続人が、 一定の割合で遺言を否定して
法定相続分の一部を取り戻すことができる権利のことです。
 
 相続人   遺留分として取り戻せる割合
 配偶者   法定相続分の2分の1
 子 供   法定相続分の2分の1
 両 親   法定相続分の2分の1(相続人に配偶者がいなければ3分の1)
 兄弟姉妹  遺留分の権利なし

 兄弟には遺留分がないので、遺言で「妻に財産全部相続させる。」と書いておけば、
事例①のような問題は起きなかったでしょう。

 事例②においても、遺言で「長女には結婚費用でいくら、生活資金でいくら渡したので、
遺留分は請求しないように。」と書いて、長男に多く相続させる遺言にしておけば争いは起きにくいでしょう。

寄与分
 寄与分とは、相続人の中で、家業を手伝うなど、亡くなられた方の財産の維持や増加に貢献した人が
法定相続分にプラスして財産がもらえる、そのプラス分をいいます。 

 事例②の場合、長男の嫁がいくら介護をしても、相続人ではないため、寄与分は認められません。

 仮に長男が介護していたとしても、被相続人の財産の維持・増加に貢献したとはいえない場合が多く、
「子が親の面倒をみた」というだけでは被相続人の財産に特別な贈与・貢献があったとは認められないため
審判になれば、寄与分とは認められない場合が多いのです。

特別受益
 特別受益とは、相続人が複数人いる場合に、その相続人の一部の人が、生前に亡くなられた方から
不動産やお金などの「贈与」を受けたり、遺言書で他の相続人に先んじて遺産を受け取ることを
指定(遺贈もしくは分割方法の指定)されたりする場合の「贈与」や「遺贈」、「分割方法の指定」をいいます。

  事例②の親との同居は特別受益にあたるか?
  → ケースにもよりますが、特別受益にあたらない可能性が高いです。

 寄与分や特別受益がある場合は、相続人間の公平を図るために、次のような計算をします。

 亡くなった父の遺産 2500万円
 長男 寄与分1000万円(家業を手伝い財産を増やした。)
 長女 生前贈与500万円(生活費として贈与された)
 二男 生前贈与700万円(事業費として贈与された)

 遺産から寄与分はマイナスし、特別受益はプラスして計算
 遺産(2500)― 寄与分(1000)+ 特別受益(500+700)= 2700
 2700×3分の1(法定相続割合)= 900
 各相続人が受け取る遺産は
 長男 900+ 寄与分1000 = 1900万円
 長女 900- 特別受益500 = 400万円
 二男 900- 特別受益700 = 200万円

不在者財産管理人選任の申立・失踪宣告
 亡くなった方の預貯金を払い戻したり、株式や不動産の名義を変えたりするには、
遺言がない限り相続人全員の署名や実印が必要です。
 ですから、相続人の中に行方不明者がいると、その人を除外して遺産分割協議をすることはできません。
 そこで、手を尽くしても行方が分からない場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人選任の申立をします。
 その場合、不在者財産管理人選任にかかる管理費用を、家庭裁判所に予納する必要があります。
 予納金は大体30万円~50万円程度です。選任された不在者財産管理人と遺産分割協議をしますが、
不在者の取得分は法定相続分を下回ることはできません。
 そして、不在者が現れるまで管理人が取得した遺産を預かります。

 また、行方不明者の相続人の生死が、7年間以上不明の場合は、家庭裁判所に対して失踪宣告の申立てを
することができます。
 船や飛行機の遭難、その他地震や火災など危難が去った後、その生死が1年間明らかでない人についても、
失踪宣告の申立てをすることができます。
 失踪宣告がなされると、行方不明者は死亡したものとみなされ、行方不明者の相続人と遺産分割協議を
することになります。

 長くなってしまいました。ご不明な点がありましたら、お気軽にご連絡ください。
 
 

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